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知っておきたい老後資金と税金の基礎知識 40代・50代の準備

Tags: 老後資金, 税金, 資産形成, 税制優遇, 40代50代

老後資金計画で軽視できない「税金」を知る重要性

老後への備えとして、資産形成に取り組んでいらっしゃる方も多いかと存じます。iDeCoやつみたてNISAといった制度を活用したり、ご自身の退職金や企業年金について調べたりと、様々な角度から情報を収集されていることでしょう。

その中で、「税金」についてどれくらい意識されているでしょうか。多くの方が「よく分からないけれど、何か関係がありそうだ」と感じているかもしれません。税金は、私たちが働くことで得る収入、資産を運用して増えた利益、そして将来受け取る年金や退職金など、お金の流れのあらゆる段階で関わってきます。

特に、これから本格的に老後資金の準備を進めたり、将来資産を取り崩したりする40代・50代にとって、税金の知識は非常に重要です。税金の仕組みを理解し、計画に織り込むことで、手取りとして残る金額が変わってきたり、利用できる制度を最大限に活用できたりする可能性があるからです。

この記事では、老後資金を考える上で知っておきたい税金の基礎知識と、資産形成・運用・取り崩しの各段階で考慮すべき税金、そして具体的な対策について解説します。複雑に感じられがちな税金ですが、基本的なポイントを押さえることで、より合理的で効率的な老後資金計画を立てる一助となるはずです。

なぜ老後資金計画に「税金」の知識が重要なのか

老後資金を準備し、実際に活用していく過程では、様々な税金が発生する可能性があります。それぞれの段階でどのような税金がかかるのか、簡単に見ていきましょう。

  1. 資産形成段階:

    • 毎月の給与や事業収入から積み立てを行う場合、その収入自体に所得税や住民税がかかります。これらの税金を支払った後の金額で資産形成を行うのが基本です。
    • ただし、iDeCoのように、掛金が所得から控除される(支払うべき税金が少なくなる)制度もあります。
  2. 資産運用段階:

    • 投資信託の分配金や株式の配当金、売却によって得た利益(譲渡所得)に対して税金(所得税・住民税、復興特別所得税含む)がかかります。原則として、これらの利益に対しては20.315%の税率が課されます。
    • しかし、新NISAなどの非課税制度を利用すれば、運用益に税金がかかりません。
  3. 資産取り崩し段階:

    • 老齢年金を受け取る際には、公的年金等控除という控除がありますが、一定額を超えると雑所得として所得税・住民税の課税対象となります。
    • 企業年金(確定給付企業年金や企業型DC)を年金形式で受け取る場合も、原則として公的年金と同様に雑所得として課税されます。一時金形式で受け取る場合は、退職所得として有利な退職所得控除が適用される可能性があります。
    • iDeCoを一時金で受け取る場合は退職所得、年金で受け取る場合は雑所得として課税されます。
    • 退職金は、長年の勤労に対する報奨という意味合いから、退職所得控除という大きな控除が適用され、税負担が非常に軽くなるように配慮されています。
    • ご自身の貯蓄や運用していた資産を取り崩すために売却した場合、運用益が出ていればその利益に対して税金がかかります。

このように、税金は老後資金の「貯め方」「増やし方」「使い道」の全てに影響を与えるため、その影響を理解しておくことが、より効率的で手残りの多い老後資金計画を立てる上で不可欠となるのです。

資産形成を有利に進める税制優遇制度

税金負担を軽減しながら資産形成を進めるために、国が用意している税制優遇制度を最大限に活用することが考えられます。40代・50代の会社員の方が特に関心を持つべき制度として、以下の二つが挙げられます。

iDeCo(個人型確定拠出年金)

iDeCoは、ご自身で掛金を拠出し、運用方法を選んで資産を形成していく私的年金制度です。この制度には、以下の3つの税制優遇措置があります。

  1. 掛金が全額所得控除になる: iDeCoに拠出した掛金は、その年の所得から全額控除されます。これにより、所得税と住民税の負担が軽減されます。課税所得が多い方ほど、この節税効果は大きくなります。(例:年間24万円を拠出する場合、所得税率20%、住民税率10%とすると、年間約7.2万円の税負担軽減になります)
  2. 運用益が非課税になる: 通常、投資で得た運用益には税金がかかりますが、iDeCo口座内で得た運用益(分配金や売却益)は全額非課税で再投資されます。これにより、効率的に資産を増やしていくことが期待できます。
  3. 受け取る時にも控除がある: 運用した資産を将来受け取る際にも、一時金として受け取る場合は退職所得控除、年金として受け取る場合は公的年金等控除を利用できます。

ただし、iDeCoは原則として60歳まで資産を引き出せない点には注意が必要です。老後資金を準備する上では強力な味方となりますが、当面の生活資金とは切り離して考える必要があります。

新NISA(少額投資非課税制度)

新NISAは、特定の投資枠内で購入した金融商品から得られる運用益や配当金が非課税になる制度です。2024年から制度が拡充され、より利用しやすくなりました。

新NISAはiDeCoと異なり、原則としていつでも資産を引き出すことが可能です。そのため、老後資金だけでなく、教育資金や住宅購入資金など、ライフイベントに合わせた資産形成にも活用できます。

40代・50代でこれから老後資金の準備を本格化させる方は、まずこれらの税制優遇制度の活用を検討することをお勧めします。ご自身の状況に合わせて、どちらか一方、あるいは両方を組み合わせて利用することで、税負担を抑えながら効率的に資産を積み上げることが期待できます。

資産運用・取り崩し段階で考慮すべき税金と対策

資産形成が進み、いざ老後を迎えて資産を取り崩していく段階でも、税金について理解しておく必要があります。

公的年金と税金

日本の公的年金制度から支給される老齢年金は、「雑所得」として所得税・住民税の課税対象となります。ただし、年金の受給額や年齢に応じて「公的年金等控除」が適用されます。この控除額は、65歳未満と65歳以上で異なり、また年金以外の合計所得金額によっても変動します。

例えば、65歳以上の方で公的年金等に係る雑所得以外の合計所得金額が1,000万円以下の場合、公的年金等の収入金額から110万円が控除されます(2020年分以降)。つまり、年金額がこの控除額以下であれば、公的年金に対する税負担は生じないことになります。

ご自身の将来の年金受給額と、他の所得(企業年金、個人年金、資産運用益など)を合わせて考えることで、老齢年金に係る税負担をある程度把握しておくことができます。

退職金と税金

会社から受け取る退職金は、「退職所得」として他の所得とは分離して税額が計算されます。退職所得には「退職所得控除」という非常に大きな控除があり、勤続年数に応じて控除額が計算されます。

この退職所得控除を差し引いた後の金額のさらに2分の1に対して税金がかかるため、多くの場合、退職金の税負担は非常に軽くなります。勤続年数が長いほど控除額も大きくなるため、退職金の金額によっては税金が全くかからないことも珍しくありません。

企業型DCやiDeCoを一時金で受け取る場合も、原則としてこの退職所得控除の対象となりますが、他の退職手当等との合算によって控除額が調整される場合がありますので注意が必要です。

資産の取り崩し(運用益の課税)

NISA口座以外の特定口座や一般口座で運用していた資産を売却して生活費に充てる場合、売却益が出ればその利益に対して20.315%の税金がかかります。また、保有している投資信託や株式から分配金や配当金が出る場合も、原則として税金がかかります。

老後、計画的に資産を取り崩していく際には、これらの運用益にかかる税金も考慮してキャッシュフローを考える必要があります。税金分を見込んで少し多めに資産を残しておくか、税金がかからないNISA口座の資産から優先的に取り崩すといった戦略も考えられます。

具体的な対策と検討事項

これらの税金の仕組みを踏まえ、40代・50代からできる具体的な対策や検討事項をいくつかご紹介します。

  1. 税制優遇制度の最大限の活用:

    • iDeCo、新NISAを満額活用することを検討しましょう。特にiDeCoの所得控除は、現役時代の所得税・住民税軽減に直結するため、節税効果を実感しやすいメリットがあります。
    • 会社の企業型DC制度があれば、その内容をよく理解し、積極的に活用しましょう。マッチング拠出(会社の上乗せ掛け金に加えて、従業員自身も掛け金を上乗せできる制度)の利用も検討に値します。
  2. 運用資産の税効率を考慮した配分:

    • 分配金や配当金の課税を避けたい資産(インカムゲインを重視する投資信託や高配当株など)は、優先的にNISA口座で保有することを検討する、といった税効率を考慮した運用も考えられます。
  3. 退職金・年金・iDeCo等の受取方法の検討:

    • 退職金、企業年金、iDeCoの受け取り方を「一時金」にするか「年金」にするかによって、適用される税金の種類(退職所得か雑所得か)や控除額が大きく変わることがあります。ご自身の他の所得や資産状況を踏まえ、どの方法が税負担を抑えられるか、あるいは資金計画上最適かシミュレーションすることが重要です。
    • 例えば、同じ年に複数の退職所得を受け取る場合、退職所得控除の計算に影響が出るため注意が必要です。
  4. 定期的なライフプランと資金計画の見直し:

    • ご自身の収入、支出、資産状況、そして家族構成や将来のライフイベント(住宅のリフォーム、子供の独立、Uターンなど)の変化に合わせて、定期的に老後資金計画と税金の影響を見直しましょう。

まとめ:税金知識を力に、計画的な老後資金準備を

老後資金の準備において、税金は避けて通れない要素です。しかし、その基本的な仕組みや利用できる制度を知っておくことで、無駄な税負担を避け、より効率的に資産を形成・管理し、そして賢く取り崩していくことが可能になります。

この記事でご紹介した税制優遇制度の活用や、各段階でかかる税金の仕組みの理解は、老後資金計画の精度を高める上で強力な武器となります。まずはご自身の現在の状況(収入、資産、会社の制度など)を把握し、どのような税金が関わってくるのかを整理してみましょう。

もし、税金計算や具体的な対策についてご自身での判断が難しい場合は、ファイナンシャルプランナーや税理士といった専門家への相談も有効な選択肢です。専門家は、個別の状況に合わせて最適なアドバイスを提供してくれます。

漠然とした老後への不安を具体的な対策へと変えるためにも、税金という視点をぜひご自身の老後資金計画に取り入れてみてください。正しい知識は、将来への一歩を踏み出す力となるはずです。