40代・50代のための企業年金・退職金活用術 老後資金に繋げる賢い選択肢
はじめに:企業年金と退職金、漠然とした不安を解消する第一歩
40代後半から50代にかけて、多くの方が「老後資金」について具体的に考え始める時期かと思います。特に、会社員の方にとって、企業年金や退職金は老後資金計画において重要な要素です。しかし、これらの制度は複雑に感じられ、「結局いくらもらえるのだろうか」「どう受け取るのが有利なのだろうか」といった漠然とした不安を抱えている方もいらっしゃるかもしれません。
企業年金や退職金は、これまで長年にわたり勤めてきたことに対する対価であり、将来の生活を支える大切な資産です。これらの制度を正しく理解し、自身のライフプランや他の資産形成状況と合わせて計画的に活用することで、老後への不安を解消し、より安定した将来設計を立てることが可能になります。
この記事では、40代・50代の会社員(特にデジタル分野に親しみのある方)が、ご自身の企業年金制度や退職金について理解を深め、老後資金として賢く活かすための具体的な考え方や選択肢について解説します。専門的な内容も含まれますが、平易な言葉で丁寧に説明していきます。
1. 企業年金制度の種類と自身の制度を知る重要性
企業年金とは、企業が従業員の老後資金のために、国の公的年金とは別に設けている年金制度です。ひとくちに企業年金と言っても、いくつかの種類があります。ご自身が勤務する企業でどのような制度が導入されているかを知ることが、活用術を考える上での最初のステップです。
主な企業年金制度には以下のものがあります。
- 確定給付企業年金(DB:Defined Benefit Plan) 将来受け取る年金(給付)の額があらかじめ決められている制度です。企業が年金資産を運用し、不足分が発生した場合は企業が負担します。従業員は運用のリスクを負いません。
- 確定拠出年金(DC:Defined Contribution Plan) 拠出された掛金とその運用益との合計額に応じて、将来の給付額が決まる制度です。掛金は企業が拠出する場合と、企業と従業員双方が拠出する場合があります。従業員自身が運用方針を決定し、運用成果によって将来の給付額が変動するため、運用リスクは加入者である従業員が負います。多くの企業型DCでは、加入者自身が掛金に追加して拠出する「マッチング拠出」や、個人型DC(iDeCo)に加入することも可能です。
- 厚生年金基金(現在は原則として新規設立なし) 厚生年金の一部を代行して運用し、上乗せ給付を行う制度でしたが、ほとんどが確定給付企業年金などに移行または解散しています。
システムエンジニアのような職種の方が多く勤務するIT企業などでは、確定拠出年金(DC)を導入しているケースが増えています。DCの場合、ご自身の運用状況が将来の給付額に直結するため、定期的に運用状況を確認し、必要に応じてポートフォリオ(資産の組み合わせ)の見直しを行うことが非常に重要です。
自身の制度を確認する方法: 会社の就業規則や退職金・年金規程を確認するほか、人事部や総務部に問い合わせるのが最も確実です。確定拠出年金の場合は、運営管理機関から定期的に送られてくる運用報告書を確認しましょう。
2. 退職金の受け取り方と税金の違い
退職金は、退職時に一時金として受け取る方法と、企業年金の一部として年金形式で受け取る方法(企業型DCの場合など)があります。どちらを選択できるか、または両方の組み合わせを選択できるかは、企業の退職金規程や企業年金規約によります。そして、受け取り方によって税金の取り扱いが大きく異なります。
-
一時金として受け取る場合: 「退職所得」として課税されます。退職所得は、長年の勤務に対する報いとして、他の所得と比べて税負担が非常に軽くなるように特別な計算方法が採用されています。具体的には、「退職所得控除」という大きな控除があり、勤続年数が長いほど控除額が大きくなります。控除額を超えた部分の所得に対しても、1/2を乗じて税率がかけられます。多くの勤続年数の方の場合、退職所得控除内に収まり、税金がかからないケースも少なくありません。
- 退職所得控除額の計算方法:
- 勤続年数20年以下: 40万円 × 勤続年数(最低80万円)
- 勤続年数20年超: 800万円 + 70万円 × (勤続年数 - 20年)
- 退職所得控除額の計算方法:
-
年金形式で受け取る場合: 「雑所得」として課税されます。公的年金等と同様の扱いとなり、公的年金等控除を差し引いた額が他の所得(給与所得など)と合算されて総合課税の対象となります。一時金に比べて税負担が大きくなるケースが多い傾向にあります。ただし、受け取り期間中に運用益が得られる可能性がある点はメリットと言えます。
どちらが有利か: 一般的には、税負担の面では一時金での受け取りが有利になるケースが多いです。特に退職所得控除が大きい長期勤続者にとってその傾向は顕著です。しかし、将来の資産の取り崩し計画や、受け取り期間中の運用による増加なども考慮して総合的に判断する必要があります。企業の規程で選択肢が用意されている場合は、シミュレーションツールなどを活用して比較検討することをおすすめします。
3. 企業年金・退職金を老後資金全体計画に組み込む考え方
企業年金や退職金を自身の老後資金計画にどう位置づけるかは、公的年金(老齢厚生年金・老齢基礎年金)の見込み額、iDeCoやつみたてNISAなどの個人資産、その他の貯蓄や資産状況、そして最も重要な「老後必要となるであろう生活費」を考慮して決定する必要があります。
- 自身の受取見込み額を把握する:
- 公的年金: 「ねんきん定期便」や「ねんきんネット」で確認できます。具体的な受給開始年齢や繰り下げ受給なども検討対象です。
- 企業年金: 会社の規約や運営管理機関からの報告書で確認します。確定拠出年金の場合は、ご自身の運用状況を基にした将来予測額も確認しましょう。
- 退職金: 会社の規程で計算方法を確認するか、人事部に問い合わせておおよその見込み額を把握します。
- 老後の必要生活費を試算する: 総務省の家計調査や生命保険文化センターの意識調査などが参考になりますが、ご自身の現在の生活水準や退職後の希望するライフスタイル(趣味、旅行、住居費、医療費など)を具体的にイメージして試算することが重要です。
- 不足額を把握し、対策を検討する: 公的年金と企業年金・退職金の見込み額を合計し、老後必要となる生活費の総額(平均余命を考慮)から差し引くことで、おおよその不足額が見えてきます。この不足額を、iDeCoやつみたてNISA、その他の個人資産、そして退職金(一時金として受け取る場合)でどう補っていくかを計画します。
- 退職金の活用方法を検討する: 一時金として受け取った退職金は、まとまった資金として運用に回すことが可能です。iDeCoやつみたてNISAの非課税枠を最大限活用する、高配当株式やREIT(不動産投資信託)で定期的な収入を目指す、比較的安定した国内外の債券でリスクを抑えるなど、ご自身の運用目標やリスク許容度に合わせて検討します。ただし、すべてをリスク資産に投じるのではなく、当面の生活費などを考慮した安全資産(預貯金など)も確保しておくことが重要です。
4. 退職金・企業年金について検討すべき具体的なポイントと注意点
- 会社の制度変更: 企業の合併・買収(M&A)や経営状況の変化により、企業年金制度の内容が変更される可能性もゼロではありません。会社の動向に関心を持ち、制度変更の説明会などがあれば参加するようにしましょう。
- 転職時の扱い: 転職する場合、それまで積み立てた企業年金や退職金がどうなるかは制度によって異なります。確定拠出年金であれば他の企業型DCやiDeCoへ移換(ポータビリティ)できるのが原則ですが、確定給付年金の場合は一時金として受け取る、転職先の制度に移換するなど、選択肢や条件が定められています。転職を検討する際は、事前に確認が必要です。
- 受け取り開始年齢: 企業年金や退職金には、多くの場合、受け取りを開始できる年齢が定められています(例:60歳、65歳など)。公的年金の受給開始年齢(原則65歳)や、ご自身の退職時期と合わせて、いつからどの資産を使い始めるかの計画を立てましょう。
- 運用状況の確認(確定拠出年金の場合): 確定拠出年金に加入している方は、少なくとも年に一度は運用状況を確認し、市場環境や自身の目標額に合わせてポートフォリオの見直しを検討してください。特に40代・50代になると、リスクを取りすぎないように、年齢に応じた資産配分(アセットアロケーション)を意識することが一般的です。
- 専門家への相談: 複雑な制度や、ご自身の状況に最適な選択肢が分からない場合は、ファイナンシャルプランナー(FP)などの専門家に相談することも有効です。ただし、特定の金融商品の購入を強く勧めるような業者ではなく、中立的な立場でアドバイスをくれる専門家を選ぶことが重要です。
まとめ:自身の状況を把握し、計画的に行動することが不安解消の鍵
企業年金や退職金は、老後資金を考える上で非常に頼りになる存在です。しかし、これらの制度は企業によって内容が異なり、受け取り方によって税金も変わるため、まずはご自身の制度を正確に理解することが重要です。
そして、企業年金や退職金の見込み額を把握した上で、公的年金や個人の資産、そして必要となる生活費と合わせて、自身の老後資金全体を俯瞰的に見ることが、漠然とした不安を解消し、具体的な対策を立てるための第一歩となります。
退職金を一時金で受け取る場合は、その後の運用や取り崩し計画が重要になります。ご自身の運用に関する知識やリスク許容度に合わせて、iDeCoやつみたてNISAなども活用しながら、計画的に資産を育てていくことが求められます。
この記事で解説した内容が、皆さまがご自身の企業年金や退職金について理解を深め、より安心して老後に向けた準備を進めるための一助となれば幸いです。自身の状況を把握し、必要に応じて専門家の意見も聞きながら、具体的な計画を実行に移していきましょう。